強度近視こそICLがおすすめな理由
強度近視でもICLは手術できるのでしょうか?
本記事は、ICLクリニックの専門情報サイトを監修する現役医師である私が、強度近視にICLが推奨される医学的な理由と、知っておくべきリスクを包み隠さず解説します。
この記事を書いてくれたのは...
強度近視とは?
強度近視とは、一般的に-6.0D(ディオプター)を超える近視を指します。
私たちの目は、奥行きが長くなるほど近視が強くなります。強度近視の目は、ちょうどラグビーボールのように奥へ長く伸びた状態になっており、この構造的な変化が様々なリスクを引き起こす原因となります。
この目の奥行き(眼軸)が伸びてしまうことで、目の中の組織、特に網膜が薄く引き伸ばされてしまいます。これが、網膜剥離や緑内障といった重篤な眼病のリスクを高める要因となります。
しかし、自分の目が強度近視だからといって過度に恐れる必要はありません。大切なのは、ご自身の目の状態を正確に把握し、適切な治療と予防策を講じることです。
1. 屈折度数(D値)で見た強度近視の定義
近視の強さは屈折度(ジオプトリー=D)で表され、数値が大きいほど近視が強いことを意味します。
弱度近視は-3D程度まで、中等度近視は-3D超から-6Dまでとされ、-6.0Dを超えると強度近視に分類されます 。
つまりマイナスの値が大きければ大きいほど視力補正に強い凹レンズが必要な状態です。
強度近視の人は裸眼では遠くが極端に見えにくく、日常生活でも強い不便を感じるレベルといえます。
2. 強度近視が起こる原因とメカニズム
強度近視の根本原因は眼球の前後方向への過度な伸展(眼軸延長)です 。
眼軸長が1mm延びると屈折度はおよそ3D程度近視側にシフトするとされ、わずかな眼球長の変化で近視が進行します 。
この眼軸延長には遺伝的要因と環境要因の両方が関与します。
近視の親を持つ子は強度近視になりやすい一方、長時間の近距離作業や屋外活動の不足といった生活環境も近視進行を促すと報告されています 。
その結果、成長期から強度近視に陥ると成人後も少しずつ近視が進み続け、眼軸長30mm近くにまで達してしまう例もあります 。
強度近視はこのように遺伝素因に環境因子が重なって発症・進行する複合的なメカニズムを持っています。
私は手術できる?ICLの度数制限と適応範囲
強度近視の方にとって、「自分の近視は手術で治せるのか?」という疑問は切実です。
現在、視力矯正手術には角膜を削るレーシックと、眼内にレンズを入れるICLがありますが、それぞれ適応となる近視の度数範囲や条件が異なります。
ここでは強度近視に対するICLとレーシックの適応基準を比較し、どちらが向いているかを解説します。
1. ICLの度数適応
強度近視の方が視力回復を考えたとき、多くの方がまずレーシックを検討されます。しかし、レーシックは角膜を削ることで視力を矯正するため、近視が強くなるほど削る量が多くなります。
特に-10Dを超えるような強度近視では、角膜の安全性を保つために必要な厚みを残せなくなることが多く、手術を断念せざるを得ないケースが多々あります。
その一方で、ICLが矯正できる度数の目安は、一般的に-3.0D〜-18.0D(またはそれ以上)とされています。この範囲はレーシックが対応できる度数を大きく超えており、まさに強度近視の方のためにあると言えます。
2. レーシックの度数限界と角膜厚の問題
一方でレーシックには物理的な度数限界があります。
レーシックはエキシマレーザーで角膜を削って屈折力を調整する手術のため、削れる角膜の厚さに余裕がなければ十分な矯正ができません。
一般的に-6D程度までの近視がレーシック適応の目安で、それ以上の強度近視(-6D超)は慎重適応となります 。
医師の判断によっては-8D~-10D前後まで手術を行うケースもありますが、日本眼科学会のガイドラインでも-10Dを超える近視にはレーシックは原則行わないとされています 。
角膜が極度に薄くなってしまうと、手術後に角膜形状が不安定になる角膜拡張症などのリスクが高まるためです。
さらに、強度近視の人がレーシックを受けた場合、近視の戻り(リグレッション)が生じやすいことも報告されています 。
術後数年で視力が再び低下し、メガネやコンタクトに逆戻りしてしまう例もあるのです。
そのため度数が大きいほどレーシックの限界が早く訪れ、強度近視の方には十分な矯正効果が得られないか、将来的な視力安定性に課題が残る可能性があります。
3. 強度近視にICLが向く医学的理由
以上を踏まえると、強度近視の矯正にはICLの方が適しているケースが多いことがわかります。
まず矯正範囲の広さでICLが優れており、レーシックでは対応困難な-10Dを超える近視でもICLなら視力改善が可能です 。
また角膜を削らないICL手術は、矯正度数が大きくても角膜を極端に薄くする心配がなく安全域が広いと言えます。
実際、ICL術後の視力は安定しやすく、レーシックのように年数経過で近視が再発する率も低いことが知られています 。
加えてICLはレンズの出し入れが可能な可逆的手術であり、万一合わない場合や将来白内障手術が必要になった場合でもレンズを取り出して対処できます 。
このようにICLは強度近視に対して「より広範な度数に対応でき、術後の視機能品質と安全性に優れ、将来にわたり眼の構造を温存できる」という医学的優位性を備えており、強度近視の方におすすめできる矯正方法なのです。
強度近視のリスクとは?ICLで軽減できる?
網膜剥離や黄斑変性などの病的近視リスク
強度近視の眼では、眼球が大きく伸びている分だけ網膜や脈絡膜に負担がかかり、様々な病変が起こりやすくなります。
代表的なのが網膜剥離と近視性黄斑変性です。
網膜剥離は伸展で薄くなった網膜に裂け目(網膜裂孔)が生じ、網膜が剥がれて視力が失われる病気です。
強度近視の人は網膜剥離の発症リスクが近視のない人の10倍以上にも高まるとされ 、特に若年で強度近視になった方ほど注意が必要です。
実際、ある研究では軽度近視の人に比べ強度近視の人は約12倍も網膜剥離を起こしやすいとの報告があります 。
さらに眼球後部の黄斑という中心部の組織が萎縮したり、脈絡膜から新生血管が発生して視力低下を招く近視性黄斑変性も強度近視の重要な合併症です。
このように病的近視の段階では網膜や黄斑へのダメージ蓄積が大きく、生涯にわたり慎重な経過観察と適切な治療介入が必要になります。
ICL手術はリスクを「軽減」するのか?
それではICL手術を受ければ、強度近視に伴うリスクを少しでも減らすことができるのでしょうか?
結論から言えば、ICLは視力面のメリットは大きいものの、病的近視そのものを治す治療ではないため、網膜や黄斑のリスクを直接「改善」するものではありません。
ただしICLにはリスクを増やさない構造的メリットがあります。
角膜を削らないICL手術は眼球の強度や形状を保ちやすく、レーシックのように角膜を薄く削ることで生じうる不安定性(角膜形状の乱れや重度のドライアイ悪化など)を回避できます 。
またICLは水晶体を温存する手術であり、白内障手術(透明水晶体摘出)のようにレンズを除去しない分、術後に網膜剥離が増えるといった懸念も基本的にありません 。
手術そのものの安全性も非常に高く、適切な適応判断と手術手技のもとでは合併症はごく稀です 。
つまりICLは強度近視の裸眼視力を飛躍的に改善しつつ、眼に新たな負担を極力増やさない矯正法と言えます。
まとめ|強度近視とICLは相性が良い理由
強度近視の矯正にはICLが非常に相性の良い方法です。
その理由は、ICLなら強度近視の大きな度数にも対応できる上に角膜を削らないため眼への負担が少なく、安全性と見え方の質を両立できるからです。
レーシックでは適応が難しい-10D超の近視もICLであれば矯正可能で、術後の視力も安定しやすくなります 。
さらにICLはレンズの取り外しが可能で将来的な変更にも柔軟に対応でき、強度近視の方にとって大きな安心材料となります 。
しかし、適応の可否や得られる効果は個々の眼の状態によって異なるため最終的な判断は専門医による検査が必要です。
そのため強度近視でICLを検討する際は、まず信頼できる眼科クリニックで詳しい検査を受け、自分の目にICLが適しているか医師と相談してください。
参考文献
・近視研究会(https://myopia.jp/)





