ICLで乱視は治る?トーリックICLの仕組み・軸ズレ不安の真実


ICL乱視コラム

「乱視があるとICLを受けることができない?」

最近よく耳にする「ICL手術」。しかし、乱視の方でもICL手術は受けることができるのでしょうか?

本記事は、ICLクリニックの専門情報サイトを監修する現役医師である私が、乱視の定義、矯正の仕組み、そして最も気になる「軸ズレ」の原因と対処法、費用相場を徹底解説します。

この記事を書いてくれたのは...

乱視とは?ICLによる矯正が必要な医学的理由

乱視

(左)正常 

(右)乱視

乱視とは、角膜や水晶体の形状の歪みにより光が網膜上の一点に正しく集まらない状態を指します 。

その結果、ピントが合わずに見え方がぼやけたり二重に見えたりしてしまいます。

しかし軽度の乱視なら日常に支障はない一方で、強い乱視だと継続的なピントずれが目の疲労や頭痛の原因になりえます 。

強度の乱視ではメガネやコンタクトレンズだけでは十分に矯正できず、ICL(眼内コンタクトレンズ)による矯正が医学的にも有効な選択肢となります。

特にトーリックICLと呼ばれる乱視矯正用のレンズを用いることで、近視と乱視を同時に補正できるため、強い乱視のある方でも裸眼視力の大幅な改善が期待できます

1. 乱視の定義

乱視とは、光線が一点に焦点を結べない状態です 。

例えば角膜がラグビーボール状に縦横で曲率が異なる形だと、上下方向と左右方向で焦点の位置が異なります。

その結果、網膜上に点ではなく線状の焦点が2本生じ、像がぼやけたり二重に見えたりするのです 。

実際、人間の角膜・水晶体は完全な球面ではないため程度の差こそあれ多くの人に乱視がありますが、弱い乱視は自覚症状がほとんどありません。

一方で強い乱視では常にピントがずれるため視界が不明瞭になり、脳が焦点を合わせようとしても限界があり目の疲れに直結します 。

このように、乱視が強度の場合はしっかり矯正することが重要であり、ICLによる矯正が検討される医学的理由となります。

2. トーリックICL(乱視用ICL)とは?

トーリックレンズ(イメージ図)

トーリックレンズには「トーリックマーク」と呼ばれる小さな目印が刻まれており、この向きを患者の乱視の軸に正確に合わせて眼内に固定します 。この仕組みによりレンズ自体が乱視の歪みを打ち消す役割を果たします。

トーリックICLとは、近視・遠視の矯正に加えて乱視を矯正する機能を持つ特殊な眼内レンズです 。通常のICL(球面レンズ)は近視・遠視のみ補正しますが、乱視がある場合は角膜の歪みを補正できません。

そこで開発されたのがトーリックICLであり、レンズに乱視の度数と逆方向のカーブを組み込むことで角膜の歪みを相殺する仕組みになっています 。言い換えれば、歪んだ鏡の前にその歪みを打ち消すレンズを置くイメージです。

その結果、乱視でばらついていた光も網膜上で一点に集まるようになり、くっきりとピントが合う視界が得られます 。

 

私は手術できる?トーリックICLの適応範囲と費用相場

ICL手術の適応は、近視・遠視の度数だけでなく乱視の度数や角膜の状態によって決まります。

もちろん目に何らかの疾患がある場合や角膜形状が極端に異常な場合などは手術適応外となりますが、一般的な正乱視で乱視度数が適切な範囲内であればトーリックICLが選択肢となります 。

また費用面も考慮が必要です。ICL手術は保険適用外の自由診療であり、特に乱視用のトーリックICLは近視用に比べてレンズ代が割高になるため全体の費用も高額になります 。

以下では、ICLで矯正できる乱視の度数制限や適用範囲、不適応となるケース、さらにトーリックICLの費用相場について詳しく解説します。

1. ICLで矯正できる乱視の度数制限と適用範囲

ICL手術は広範囲の近視・乱視に対応可能ですが、矯正できる乱視の強さには限界があります 。

一般的な目安として、ICLで対応できる乱視度数は約4.0D程度までとされています (製品やクリニックによって若干異なります)。

つまり中等度(4D前後)までの規則的な乱視(正乱視)であればICLでの矯正が可能ですが、これを超える強度乱視ではレンズ設計上すべてを補正しきれず術後も一部乱視が残る可能性があります 。

実際、ICLで矯正できる乱視は主に「正乱視」に限られます。不正乱視のように歪みの軸がはっきりしないケースでは、レンズで均一に補正することが原理的に難しくほとんど適応外となるのです 。

2. ICLで矯正できない「不正乱視」のケースとは

正乱視

乱視には大きく規則的乱視(正乱視)と不規則な乱視(不正乱視)があります。

ICLが適応となるのは前者の正乱視がほとんどで、不正乱視の場合は適応外となるケースが多いです

不正乱視とは、角膜表面の歪み方に規則性がなくデコボコになっている状態で、角膜の病気(円錐角膜など)や外傷・手術後の瘢痕などが原因で生じます 。この場合、光の屈折が様々な方向に乱れてどこにもピントが合わない複雑な見え方になります

通常のメガネやソフトコンタクトでは補正困難で、ハードコンタクトレンズで角膜の凹凸を涙の層で埋める方法が必要です

3.乱視用ICLが高くなる理由と費用相場

乱視用ICL(トーリックICL)は、通常のICLに比べてレンズの製造や設計が特殊である分コストが高く設定されています。

レンズ内に乱視補正度数を組み込むため、在庫管理やオーダーメイドの要素が加わることが一因です。

また手術自体も乱視の軸合わせに高度な技術を要し、術前検査・計算もより綿密に行う必要があるため、その分の費用が上乗せされる傾向があります。

その結果、乱視用ICL手術は近視のみのICL手術より費用が高くなるのが一般的です。

乱視用レンズは一般的なICL手術に比べ、両側で6万円~10万円ほど高く設定されていることが多いです。

「軸ズレ」の不安の真実と失敗しないために

乱視用ICL手術で患者さんが最も不安に感じる点の一つが「軸ズレ」でしょう。

軸ズレとは、眼内に挿入したトーリックICLレンズが術後に回転してしまい、本来合わせるべき乱視の軸からズレてしまうことを指します。

軸ズレが起こると乱視の矯正効果が低下し、せっかく矯正した視力が十分出ない可能性があります。

しかし軸ズレは決して「手術の失敗」を意味するものではなく、起こり得るリスクを想定して管理・対処すべき事象です。

ここでは軸ズレがなぜ起こるのか、その頻度や影響、そして軸ズレを防ぐための対策や万一生じた場合の対処法・保証について解説します。

適切なリスク管理を知ることで、不安を最小限にICL手術に臨むことができるでしょう。

ICLの「軸ズレ」とは?発生する原因と影響

ICLの軸ズレとは、トーリックICLレンズが眼内で回転して所定の角度からズレてしまうことを指します。

術後しばらくはレンズが安定するまでに時間がかかり、特に術後1ヶ月以内の早期に起こりやすいとされています 。

原因としては、レンズサイズが眼内のスペースに対して合っていなかった場合や、術後早期に目を強くこする・衝撃を受けるなど物理的な外力が加わった場合にレンズ回転が誘発されることがあります 。

軸ズレが起こると乱視矯正の効果が低下します。その程度はズレる角度によりますが、例えばトーリックICLが3°回転すると矯正効果が約10%低下し、10°ズレると約30%も乱視補正が落ちると報告されています 。

極端に言えば30°以上ズレると乱視矯正効果がほぼゼロになってしまいます(実質的に乱視が残った状態になる) 。

ただし幸いなことに、多くの軸ズレは10°未満の軽度な回転に留まり視力への影響も小さいとされています 。

軸ズレはICL手術における起こり得るリスクではあるものの、その頻度は低く大部分は軽微です。それでも不安を完全に払拭するため、術者は軸ズレを極力防ぐ手技を取り、患者さんも注意点を守ることが重要となります。

軸ズレを防ぐための術前検査と医師の技術

軸ズレを最小限に抑えるためには、術前の精密検査と術中の熟練した手技が不可欠です。

まず術前検査では乱視の度数・軸を正確に測定し、目に適合するレンズ度数・サイズを選定します 。

特に乱視軸は1°のズレも見逃さないよう何度も測定し、瞳孔の状態による軸のブレ(眼球の微小なねじれ=サイクロトーション)も考慮します。

またコンタクトレンズ装用中の方は角膜形状に影響が出るため、検査前に一定期間コンタクトを中止して本来の角膜カーブに戻しておく工夫も重要です 。

手術当日、執刀医は患者さんの角膜上に乱視軸の目印(マーキング)を付けたり、デジタル画像ガイドシステムを用いてICLを挿入すべき角度を可視化します 。

そしてレンズを挿入する際にトーリックマーク(乱視補正部の指標)を乱視軸にピタリと合わせて慎重に固定します 。この一連の操作には高い精度が要求され、執刀医の経験・技術が物を言います。

また、患者さん側も、術後レンズが安定する約1ヶ月間は目を強くこすらない・衝撃を避けるなど注意点を守ることが求められます 。

医師と患者が協力してリスク管理に努めることで、軸ズレの不安は大きく軽減できるのです。

術後に軸ズレが発生した場合の対処法と保証

万が一、術後にICLレンズの軸ズレ(回転)が生じても適切な対処法があります。基本的に以下の段階的な対応が取られます 

・経過観察:わずかな回転(例えば5°程度)で視力にほとんど影響がない場合は、すぐに再手術は行わず経過を見ます 。自然に安定する可能性も高いためです。

・光学矯正:軽度の軸ズレで乱視がわずかに残った場合、一時的にメガネやコンタクトレンズで補正する方法もあります 。微小な残存乱視なら日常的に問題ないケースも多いです。

・再手術(位置調整):明らかにレンズが回転して視力低下の原因になっている場合は、再手術でレンズの位置・角度を正しく調整します 。ICLの場合、この再調整は比較的安全に行え、レンズ自体を交換せずに回転位置のみ直すことが可能です。

・レンズ交換:極めてまれですが、調整しても満足な結果が得られない場合やレンズ度数自体の見直しが必要な場合は、レンズそのものを交換することも検討されます 。

多くのクリニックでは、術後一定期間内のレンズ位置調整や交換に保証制度を設けています 。一般的に数ヶ月~3年程度の術後保証期間を設定し、その間に軸ズレによる再手術が必要となった場合は追加費用なしで対応してくれるケースがほとんどです 。

ただし、心配な方は保証期間が長い(2年以上)クリニックをお勧めします。

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まとめ|乱視矯正にもICLが良い選択肢である理由

乱視が強い方にとって、ICL(特にトーリックICL)は角膜を削らず安全に乱視を矯正できる最良の選択肢と言えます。

メガネやコンタクトで矯正しきれない強度乱視でも、ICLなら広範囲に対応でき高精度な視力改善が期待できます 。

乱視の定義や仕組みを理解すると、ICLが角膜の歪み自体ではなく屈折を補正するアプローチであることが分かります。

しかしその分、軸ズレなどリスクへの不安もあるでしょう。

今回解説したように、軸ズレは決して恐れるほど頻発するものではなく、医師の適切な検査・手技と患者さんの術後注意により予防可能であり、万が一起きても再調整で十分リカバリーできます 。

費用面ではトーリックICLは高額ではありますが、強い乱視を根本から解決し裸眼で快適に生活できる価値は計り知れません。

ICLを受ける際は不安な点はカウンセリングで遠慮なく質問し、納得した上でICLによる乱視矯正に踏み出してみてください。

クリアな視界があなたを待っています。

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参考文献

・One-year evaluation of rotational stability and visual outcomes following horizontal, vertical, and oblique implantation of ICL V4c論文はこちら